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アーティストインタビュー:音の魔術師アレックス・マイオロ

  • 2022年1月29日
  • strymon
アーティストインタビュー:音の魔術師アレックス・マイオロ

元記事:https://www.strymon.net/artist-feature-alex-maiolo/
著者:Angela Heine(Strymon)

heme For Great Cities:Tallinnは、近年のテクノロジーを駆使し、その街の音を音楽に取り入れて作曲された現代音楽であり、エストニアの首都タリンへの賛歌です。この曲には芸術の創作において最も大切な要素である、感情を掻き立てるようなサウンドがふんだんに盛り込まれています。アレックス・マイオロについて、まだ知らないという方も、是非今回のブログをチェックして、感性を揺さぶるアーティスト、アレックス・マイオロの音楽の世界に触れて下さい。

Photo Credit: Jeffrey Delannoy

Q:まずコンセプトについてお聞かせください。Themes For Great Cities: Tallinnの曲作りのアイデアはどこから来たのでしょうか。

Alex:私はもともとMusique Concrète(1940年代後半、フランスで作られた現代音楽の一つのジャンル)に興味がありましたが、もっと音楽的なものにしたいと考えていました。同時に、どうすれば「街」にスポットライトを当てられるのか、という方法も考えていました。私はこれまでに多くの旅を通して、サラエボ、ケルン、リスボン、ゲントといった街での感動的な体験をしました。

そして私のお気に入りの街の上位に入るのがエストニアの首都タリンです。タリンミュージックウィーク(TMW)は、縮小版SXSWといったところで、私が今まで行った中で最も先進的なフェスティバルの一つです。私はそこへジャーナリストとして出席し、この素晴らしい街を称えるべく、音楽でラブレターを作りたいというアイデアを、主催であるヘレン・シルドナに伝えました。それは音楽や音のパターン、モジュラーキットの裏側といったことだけではなく、街の日々をも内包したものにしたいと思っていました。TMW側もこのコンセプトを気に入ってくれて、私たちの自由にさせてくれました。TMWパートナーのTeliaにも、絶え間ないサポートをくれたことに感謝を伝えたいです。


Q:グループにはErki Pärnoja、Jonas Bjerre、Jonas Kaarnametsがいましたが、このプロジェクトはどのようにコラボレーションしましたか。

Alex:Sander Mölder、Timo Steinerと共にConcerto for an Intersection and an Electric Guitarを演奏したJonas Kaarnametは、本当に素晴らしいインスピレーションを与えてくれたので彼にまず声をかけました。彼は私のお気に入りのギタリストの一人であるだけでなく、アンビエント系の音楽も演奏できます。Erki Pärnoja、Jonas Bjerreはエストニア人です。ジョナス・ビエールは、ミューと呼ばれるデンマークのバンドで、彼らのアルバム「…And The Glass Handed Kites」は私にとってこれまで聞いた中でもトップランクに入ります。この3人に声をかけたところ、なんと嬉しいことに全員が「YES」と言ってくれたのです。そしてビジュアル担当としてAlyona Movko-Mägiも参加し、彼女に様々なアイデアも取り込んでもらいながらプロジェクトが進みました。

Q:どのように街の音を記録しましたか?

Alex:ほとんどはiPhoneで行いました。オリジナルのアイデアは、普通の音と面白い音を収録するというものでした。多くの街にはトラムがありますが、列車がTeleskiviの角を曲がる時に聞こえる小さな鳴き声だとか、そういった地元の人が知っているような音を録りたいと思っていました。私たちはエストニアの屋外市場に行き、吹雪ではためくフラッグのポールに当たるロープの音、港に響く汽笛、ストリートミュージシャンがフルートを演奏するトンネル道での歩行者のハイヒールの音なんかを記録しました。また、光を電圧のように数値化して音に変換したいとも思っていました。私は友人にこれを説明すると、エストニア語で「謎の回路」を意味するMõistatus Vooluringidと名付けたものを私たちに作ってくれました。そこで、港に降り注ぐ光や木々の木漏れ日から値を読み取り、音と光の両方を電圧とゲートに変換しました。モジュラーでは、ピッチ、アニメーション、モジュレーション、その他多くのものに電圧が使用されます。音として聞こえないだけでそこでは様々な現象が起こっているので「街は私たちの5番目のバンドメンバーだ」と表現しています。

Q:あらかじめ街の音が作品にどのように収まるか考えてから録音したのですか?それとも多くの音は即興で録音されたのでしょうか?

Alex:技術的な面はうまくいくと分かったので、自由に録音に取り組んだと思います。唯一のルールは、音楽にしようとしすぎて、ひとつのアイデアに固執したり、アイデアを探そうとしたりしすぎないことでした。

今回、MIDIを使用せず、ノートパソコンをMake Noise MorphageneやMusic Thing Radio Musicのようなものと一緒にテープマシンのように再生用に使いました。矛盾しているように聞こえますが、私たちは嬉しいハプニングが起こることを期待して身を委ねて待っていたのです。はためくフラッグのポールに当たるロープの音はシャッフルされたジャズリズムに組み替えて、エンベロープを経由させ、そこからゲート抽出した後に、508-Loop-Detected Bounce Sequencerに取り込みました。まるでアップライトベースのように聞こえますが、System 80 VCOとVCFをコントロールするもので作られた音になり、ゲートによって金属的なピアノサウンドになっています。カップのカタカタ鳴っているサウンドは、ローパスゲートを通して、テクノリズムに生まれ変わりました。「オルガン」の音は、公園の光を読み取った値をクオンタイズして、XAOCオシレーターにインプットしたものです。色々と試みた結果、ライブでの演奏では、Jonas Bと私はモジュラーを担当して、ErkiとJonas Kにはギターとキーボードを演奏しました。

Q:パフォーマンスでよくMagneteを愛用しているとおっしゃっていましたが、どのように使っているか教えて下さい。

Alex:私はエフェクターマニアなんですが、Strymonのチュートリアルは本当に良いですね。私はそれでディレイをクオンタイズする方法を学びました。Magneteは、El CapistanBlueSkyと併せて、私が参加しているモジュラーデュオのTRIPLE X SNAXXX、そしてサイキックロックバンドのLacy Jagsで愛用しています。私はエフェクターの専門ムック本に寄稿したこともあり、それらのStrymon製品について別のメディアで記事を書いたりもしています。ただこれまで長年の間、ディレイをクオンタイズするなんていうゲームチェンジャーなアイデアを考えたことはありませんでした。演奏中、Jonas Kは時々私に色々なオーディオソースをくれるのですが、そのディレイ音をPentatonicマイナースケールなんかで鳴らしたい時にMagnetoを使用します。例えば、Jonas BはPaul’s extreme sound stretch[SM1] を使用して、ロシア正教会合唱団からのオーディオのほんの数秒を3分の長さにまで変えました。彼は本当にクリエイティブで、アイデアマンなので、結果は実に幽玄で素晴らしいものとなりました。私はオーディオに5度、マイナー3度、オクターブだけでなく、セルフオシレーションも追加しています。ガヤガヤとした港の音で作った「鐘」の音も同様にして作りました。ErkiとJonnas Kは、El CapistanBlueSkyと併せて、Decoも使っており、すべてIridiumを介して宅へとインプットされています。特に意識的にそうなったわけではなく、Strymon製品を気に入っているので、気づいたらそうなっていただけです。次回はStarlabを使ってみたいと思います。本当に素晴らしい製品ばかりなので、モジュラー系の製品も是非作り続けてほしいですね。

Q:次回はどのようなものに挑戦するつもりか教えてもらえますか

Alex:今回のコンセプトに対するみんなからの反応は、予想以上に良かったです。他の街に対しても同じコンセプトを応用してきましたが、このパンデミックの状況もあり、それが将来的にも今と同じように感じられるかは分かりません。そして、時代とは逆行するやり方かもしれませんが、私たちはいつでも地元のアーティストを巻き込み、音を録音し、メロディーを書き、という具合に今回と同じやり方をするでしょう。

TMWのサウンドクルーによって記録された最高のパフォーマンス、私たちの友人Kaarel TamraとAdam McDanielによる[Angel Olsen, Animal Collective]はアナログ盤にする話もありますが、現段階ではYouTubeにありますのでチェックしてみて下さい。


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